先日、「AppleがマイクロLED搭載Apple Watchプロジェクトを中止した可能性が高い」というニュースが流れてきました。理由は、「製造コストが高すぎる割に、有機ELディスプレイが進化しているため、大きな付加価値をもたらさないため」みたいです。Appleは2014年にマイクロLEDを開発する新興企業を買収するなど、次世代ディスプレイに多額の投資をしています。そして、次世代Apple Watch UltraにマイクロLEDが搭載されると噂されていたのですが、中止になったようです。Ultraは他のApple Watchよりも高いため、「良いディスプレイなんか使わず、価格を抑えて」というユーザーの声もありそうなので、悪いニュースではないかもしれません。そもそも、マイクロLEDディスプレイとはどういったディスプレイなのでしょうか。今回は、そんな次世代ディスプレイについて書きたいと思います。
マイクロLEDディスプレイは液晶、有機ELよりも優れている
マイクロLEDディスプレイは従来のディスプレイの仕組みと異なり、個々のピクセルを構成する素子にマイクロメートルサイズのLEDチップを使用します。この技術によりマイクロLEDディスプレイは下記のような点で、従来のディスプレイよりも優れた特性を持つディスプレイを実現することができます。
- 高画質
- 高速応答
- 低消費電力
- 高い耐久性
- 透明性
高画質
マイクロLEDディスプレイは、個々のピクセルを構成する素子にLEDチップを使用しているので、映像を映すときはLEDチップが自ら発行します。そのため、バックライトのような光源を必要とする液晶よりも、画面の暗い部分を完全に黒く表現することができ、高いコントラスト比を実現することができます。
また、マイクロLEDチップは、従来のディスプレイよりも広い色域を実現できたり、LEDチップの光源の効率の高さを活かして高い輝度も実現できます。
高速応答
LEDチップは、液晶や有機EL素子よりもはるかに高速にスイッチングできます。画面の書き換え速度が向上すると、応答速度が上がり、高いリフレッシュレートを実現できます。ゲーマーの方には、とても嬉しいかもしれません。さらに、マイクロLEDディスプレイは、高速な応答速度を活かして、VRやARなどの次世代ディスプレイにも適しています。VRやARでは、ユーザーの動きに合わせて画面をリアルタイムに更新する必要があります。マイクロLEDディスプレイは、この要求を満たすことができるため、これから普及するといわれているVR、ARのようなウェアラブルデバイスには欠かせない技術です。
低消費電力
液晶ディスプレイはバックライト、有機ELディスプレイは有機材料を励起して光を発生させるのに対して、マイクロLEDディスプレイは、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイとは異なり、自ら光を発するLEDチップをピクセル素子として使用しています。さらに、マイクロLEDディスプレイは個々のLEDチップを独立して制御できるため、常にバックライトが点灯している液晶ディスプレイに対して、暗い部分ではLEDチップを点灯させずに済みます。結果的に、マイクロLEDディスプレイは従来のディスプレイよりも低消費電力で動作できます。
高い耐久性
マイクロLEDは有機材を使用しません。有機ELは各画素に有機素材を用いていますが、有機材は長時間、電化にさらされると痛み劣化します。また、有機ELには長時間同じ画面を表示し続けた結果、画面の一部にその画像の残像が残ってしまう焼き付きという現象が発生するため、液晶ディスプレイよりも寿命が短いとされています。有機ELは液晶よりも高コントラストな映像を映し出せますが、マイクロLEDは有機素材を使わずに高コントラストを実現できます。
透明性
マイクロLEDは、高い透過率を持つ材料や微小なチップサイズにより、高い透明性を実現できます。これにより、マイクロLEDをスマートグラスや透明ディスプレイなどに活用できます。
現在のマイクロLEDディスプレイの課題
これらの優れた特性を持つマイクロLEDディスプレイは、欠点無しの究極のディスプレイのように思えますが、現在の技術では、ナノメートル単位の小さなLEDを大量に敷き詰めて一枚のディスプレイを作るのに、膨大なコストと時間がかかります。Appleは自社製品な中で画面サイズが小さく、画素密度が比較的少ないApple Watch UltraをマイクロLEDディスプレイの対象にしました。それでも今の段階では技術的に難しく、搭載を中断したのだから、まだ普及するには時間がかかる技術であることは確かです。
Appleの他にもマイクロLEDの開発に力を入れているソニーやサムソンは、富裕層向けに大画面のマイクロLEDディスプレイを販売したことがあります。どうやら、マイクロLEDが持つ高画質さに「ホームシアター用としてほしい」という富裕層がいるらしく販売されましたが、価格が1000万円台から2000万円台と、とても庶民が買える金額ではありません。
技術的に課題が残るマイクロLEDですが、生産スピードを上げるための新技術や新工法の開発されており、容易に製造できるようになれば、僕たちが使うノートPCやスマートフォンにマイクロLEDディスプレイを搭載できる日が来るかもしれません。
まとめ
将来、ARやVRの機能を持ったウェアラブルデバイスが普及すると考えられる未来にはマイクロLED技術は必要です。CES 2024に出展したサムスンの映像展示ブースでは、薄型筐体に収められた完成度の高いマイクロLEDディスプレイが展示されていて、各ディスプレイ製造メーカーは着実に製造技術を高めていると実感しました。まだまだ、課題は残っていますが、今度こそApple製品にマイクロLEDディスプレイが搭載される日が来ると良いですね。