CPU、GPUと並んで、最近聞くようになったNPU。
NPU(ニューラル プロセッシング ユニット)は、オンデバイスで行うAI機能の処理を得意とするプロセッサのことです。CPUよりもAI機能の処理を得意とし、GPUよりも低電力でタスクをこなします。
そのため、電力が限られているモバイル端末に搭載されていることが多いです。
近年の急速なAIの普及に伴って、最近のPCにはNPUが搭載されるようになりました。そのため、数年前のPCだと搭載されていないものがほとんどだと思います。
実際、今はまだNPUを動かす環境やアプリケーション、ツールが少ないため、ユーザーがNPUの恩恵を受けることはあまりないかもしれませんが、オフラインでもAIを利用できる「AI PC」やSLM(小規模言語モデル)を搭載したスマートフォンが急速に普及している今、ユーザーがAIを活用する場面が徐々に増えており、これからユーザーにとってAIが身近な存在になっていくでしょう。
そのような状況になれば、今のCPUやGPUのように、より高性能なNPUが必要とされます。
この記事では、そんなNPUを搭載したPCやプロセッサについて解説したいと思います。
NPU搭載PCは何ができるか
NPU搭載PCでは、他のPCと比べて以下のようなAI機能をオンデバイス(インターネット接続無し)で高精度、高効率に実行することが期待できます。
- 写真加工や画像生成などのAIによる画像処理機能
- チャットアプリやメールで返信をする際にAIが高品質な返答を提案したり、外国語を自動翻訳したりする自然言語処理
- ゲーム画面の解像度をAIが引き上げ、PCのグラフィック性能を高める
他にも、オフィスアプリや音楽ツールアプリ、動画制作アプリなどにAIを取り入れて、ユーザーの作業効率や作業品質を上げるといったAI機能も多く登場しています。
また、わざわざクラウドを利用せずにオンデバイスでAI機能を実行する理由として、「クラウドサーバーを経由しないため処理速度が速くなる」や「写真や動画をサーバーに送らないためプライバシーが保護される」、「ネット環境がない場所でもAI機能を実行できる」といったメリットがあります。
このようにAI機能は、工夫次第でいろいろなアプリや機能と組み合わせることができます。
しかし、そのためには、NPUを搭載していることや、NPUが高性能であること、ソフトウェア側がNPUを使ったAI処理に最適化されているかなど、ハードウェアとソフトウェア共に環境を整える必要があります。
NPUを搭載したプロセッサの種類
ユーザーがこうしたAI機能を利用するには、現状、NPUを搭載したプロセッサを搭載したPCを選ぶ必要があり、現在(更新日:2024年10月3日)は、以下のプロセッサシリーズが、NPU搭載プロセッサとして登場しています。
- Intel 「Core Ultra」、「Core Ultra 200V」シリーズ
- AMD「Ryzen 7040」、「Ryzen 8040」、「Ryzen AI 300」シリーズ
- Qualcomm「Snapdragon X Elite」、「Snapdragon X Plus 10-core」、「Snapdragon X Plus 8-Core」
- Apple「Mチップ」シリーズ
Windows OSの場合は、主にIntel、AMD、Qualcomm製プロセッサ。Mac OSの場合はApple製の「Mチップ」が使われています。
Windows OS対応のNPU搭載プロセッサは、去年あたりから続々と登場していて、今後も普及していくでしょう。
Appleの「Mチップ」シリーズは、2020年に初めて登場しました。
2020年に初めて登場したAppleの「Mチップ」シリーズは、Neural Engine(ニューラルエンジン)というプロセッサがNPUの役割をしています。大抵のApple製品に搭載されており、iPhoneに搭載されているプロセッサ「Aチップ」にも、このNeural Engineが使われています。
Neural Engineは製品の種類やスペックによって、コア数が変るため、高性能な機種やスペックを選ぶとその分、高性能になるのですが、現状、Neural Engineを使う場面というのは限られているため、一般的な使い方(Web閲覧、ネット動画視聴)をするユーザーであれば、Neural Engineの恩恵はほとんどないので、コア数など気にしなくても大丈夫だと思います。
各種プロセッサの紹介
Intel「Core Ultra 」シリーズ
「Core Ultra 」シリーズは昨年の12月に発表されたIntelの個人用・家庭用向け次世代プロセッサです。従来の「Core i」シリーズが廃止になり、新たにNPUを搭載した「Core Ultra 」シリーズに切り替わりました。発表されてからまだ数ヶ月しか経っていませんが、各PCメーカーから続々と搭載機種が登場しています。
Intel「Core Ultra 200V」
今年の9月に発表された2世代目のCore Ultraプロセッサです。
前世代と比べて、性能の向上はもちろん、電力効率アップやDRAMのオンボード化、ハイパースレッディングの廃止など、いくつかの改良・進化が施されています。
また、NPU単体でのTOPS数が、「Core Ultra 5」で40TOPS、「Core Ultra 7/9」で48TOPSとなったことで、Intel製品で初めて「Copilot + PC」の準拠条件をクリアしたプロセッサとなりました。
本プロセッサを搭載したノートPCは、Acer、ASUS、Dell、HP、Lenovo、LG、MSI、Samsungのような大手OEMメーカーから、すでに販売されており、「Copilot+ PC」へのアップデートは、11月から無料で配信される予定です。
AMD「Ryzen 7040」シリーズ
「Ryzen 7040」シリーズは2023年の1月にCES 2023にて発表されました。このプロセッサは「AMD Ryzen AI」という名前のAI専用アクセラレータ(NPU)を初めて搭載したAPUです。
AMD「Ryzen 8040」シリーズ
「Ryzen 8040」シリーズは、前作の「Ryzen 7040」シリーズの改良版で、昨年の12月に発表されました。「Ryzen 8040」シリーズは、「Ryzen 7040」シリーズと同じプロセスノードですが、従来よりも性能が向上しています。
AMD「Ryzen AI 300」シリーズ
「Ryzen AI 300」は、今年の6月に行われた「COMPUTEX 2024」にて発表されました。
初めて名称にAIと入った、この世代から50TOPSの性能のNPUを搭載したことで、AMD製品で初めて「Copilot+ PC」の準拠条件をクリアしたプロセッサとなりました。
CPUにはモバイルデバイスとしては初めてとなる4nm テクノロジーのAMD「Zen 5」アーキテクチャを、GPUにはAMD 「RDNA 3.5」グラフィックスを採用。
AMD 「XDNA 2 NPU」アーキテクチャアを採用したNPUは、演算エンジンや電力効率が改善されたことで最大50TOPSの演算能力を発揮します。
同プロセッサを搭載した製品は、ASUSやMSIなどの主要OEMメーカーから販売されており、Intelの「Core Ultra シリーズ2」と同じく、11月に「Copilot+ PC」へのアップデートが配信される予定です。
Qualcomm「Snapdragon X Elite」、「Snapdragon X Plus 10-core」
QualcommのノートPC向けプロセッサ「Snapdragon X Elite」と「Snapdragon X Plus 10-core」は、初めてマイクロソフトの「Copilot+ PC」に対応して販売されたAI PCの先駆者です。
今まで、ノートPCのプロセッサ界で2強を誇っていたIntelとAMDよりも先に「Copilot+ PC」対応プロセッサとして販売されたことで、新たにIntel、AMD、Qualcommの3強構成が誕生したように感じます。
Qualcomm「Snapdragon X Plus 8-Core」
本プロセッサは、9月に発表されたSnapdragon Xシリーズの新プロセッサです。
すでに販売されているSnapdragon Xよりもコア数を減らしコストカットしたことで、低価格帯へレンジを広げることが目的のプロセッサとなっています。
シリーズの中で下位プロセッサとなりますが、上位のSnapdragon Xと同様に、45TOPS性能のNPUを搭載しているので、「Copilot+ PC」の準拠条件をクリア。低価格の「Copilot+ PC」が欲しいユーザーの要望に応えることができます。
Apple「Mチップ」シリーズ
Appleの「Mチップ」が初めて発表されたのは、今から約3年半前の2020年11月10日。
それまでのMacシリーズにはIntel製のCPUが使われていましたが、自社製チップの「Mチップ」シリーズに切り替えたことで、Neural Engine(NPU)が搭載されるようになりました。
低消費電力かつ高性能なMac専用チップとして登場した初代M1チップは「MacBook Air」、「13インチMacBook Pro」、「Mac mini」の3機種に初めて搭載され、現在では4世代目のM4チップまで登場しています。
Copilot+ PCとは
「Copilot+ PC」とは、今年の5月に発表されたMicrosoftが定義する新しいカテゴリーのWindows PCで、AI技術を最大限に活用した次世代のパソコンのことです。
NPUを搭載した機種は「AI PC」と呼ばれる場合がありますが、「Copilot+ PC」は、その中でも特に性能が特化したPCであり、「Copilot+ PC」を名乗るには以下の条件をクリアする必要があります。
- Microsoftが独自に承認したSoCを搭載している
- プロセッサのNPUが40TOPSの性能を持っている
- メインメモリが16GB以上
- ストレージが256GB以上
現在登場しているプロセッサで「Copilot+ PC」に対応できるのは、上記で紹介したIntelの「Core Ultra 200V」とAMDの「Ryzen AI 300」、Qualcommの「Snapdragon X Elite」、「Snapdragon X Plus 10-core」、「Snapdragon X Plus 8-Core」のみとなっています。
「Copilot+ PC」では、普通のWindows PCと違って、Microsoftが用意した、いくつかのAI機能をオンデバイスで利用することができます。
Apple Intelligence
「Apple Intelligence」は、Appleが用意した様々なAI機能を利用することができる総称のことです。
利用できるAI機能として、「文章の要約」や「メールの校正」、「画像の生成」、「Siriとの自然な会話」などがあります。
WindowsのAIが「Copilot+ PC」だとすれば、Macは「Apple Intelligence」といったところですかね。ちなみに、「Apple Intelligence」は、対応していれば、iPhoneやiPadでも利用できます。
先月配信された「macOS Sequoia」で利用できるのですが、現在は「Apple Intelligence」のみ、まだ配信されておらず、来年にアップデートで配信され利用できるようになる予定です。
ちなみに、「Apple Intelligence」は、M1以降の機種で利用できます。そのため、Intel Macの機種では利用することができません。
まとめ
以上、「NPU搭載PCについて」と「現在登場しているNPU対応プロセッサ」について解説しました。
今はまだ活躍の機会が少ない印象ですが、巨大テック企業をはじめ、各IT企業が続々と独自のAI機能やLLM(大規模言語モデル)を発表していて、数年後には多くのAI機能やAIツールが普及して人々の生活や仕事をサポートするはずです。
今回の記事で、AI PCに興味を持った方は、ぜひ自身で確かめてみて下さい。